
懐かしい音楽が脳に与える影響
東北大学 加齢医学研究所 臨床加齢医学研究分野 教授
東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター長
瀧 靖之先生
懐かしい音楽が脳に与える良い影響
そもそも音楽というものは、私たちの感情をすごく簡単に、そして大きく揺さぶってくれる素晴らしい媒体です。
音楽を聴くと、心地よさや感動に関わる「ドーパミン」というホルモンが脳内に出て、気持ちいい、心地いいと感じます。
音楽を聴くことは、それ自体が脳に良いのです。
そこへ「懐かしい」というノスタルジー(懐かしさ、郷愁)の要素が加わると、さらに良い効果があります。
懐かしさを感じている時も、脳の「報酬系」という部分が刺激され、ドーパミンが分泌されます。
懐かしい音楽を聴くということは、2重3重に私たちへ心地よさや幸福感をもたらしてくれるのです。
そして、この「幸せだ」と感じる主観的な幸福感は、脳の健康を維持する上で非常に重要であることが分かっています。
懐かしさは未来への力になる
ノスタルジーは、かつては「後ろ向きな行動」と捉えられがちでした。
しかし研究が進み、実は私たちが未来の計画を立てる時と、昔を懐かしむ時では、脳の同じような領域が使われていることが分かってきました。
昔を思い出し、懐かしむことは、私たちが未来を生きていく上での力にもなるのです。
このノスタルジーが脳の健康維持に良いという研究は、2000年代に入ってから本格化したもので、比較的に新しい知見です。

記憶の扉を開く「10代の頃の音楽」と「会話」
特に効果的なのが、10代の頃に聴いていた音楽です。
中学・高校時代というのは、脳のドーパミンに対する感受性が最も高い時期で、その頃に聴いた音楽は非常に心に残りやすく、懐かしさを強く引き出してくれます。
また、ノスタルジーの素晴らしい点は、音楽そのものが懐かしいだけでなく、それにまつわる様々な記憶(エピソード記憶)を呼び起こすことです。
「この曲を誰とどこで聴いたな」「あの人は今どうしているだろう」といった、人と人との温かい繋がりを思い出すことができます。
このこともまた、幸福感を高めて脳の健康に繋がります。
曲のジャンルは、アップテンポでもバラードでも構いません。
ですから、一人で聴くだけでなく、ご友人やご家族など、誰かと一緒に昔の音楽を聴きながら思い出を語り合うことは、コミュニケーションが生まれるという点でも、さらに脳に良い効果をもたらします。
全世代に有効、そして音楽から広がる健康習慣
この効果は高齢者に限りません。
例えば40代、50代の方が懐かしい音楽を聴くことは、日々の仕事のストレスを和らげる効果も期待できます。
まさに全世代に有効なのです。
さらに、好きな音楽を聴いていると、今度は「自分でも演奏したい」「歌いたい」という気持ちになることがあります。
楽器の演奏や歌うことは、認知症のリスクを下げる効果が非常に高い活動です。
特に歌うことは、喉周りの筋肉を鍛え、高齢期に問題となりやすい誤嚥につながる「オーラルフレイル(口腔虚弱)」の予防にも繋がります。
運動や食事制限と違って、好きな音楽を聴くことは誰でも簡単に、そして楽しく始められます。
そういう意味で、ノスタルジーと音楽の組み合わせは、脳の健康にとって非常に手軽で効果的な方法と言えるでしょう。

